日本:初出「ビッグコミック」1998年5月25日発売 No.841
フランス:エッセイ集「l'Apprenti Japonais」収録/レザンプレスィオン・ヌーベル社(2006)

 
 
 
日本人はどこへ、なんの目的で行くのか、はっきりしていないとただちに不安になり、したがって、様々なホテルを発明した (*1) 。ただ眠るだけの「ビジネスホテル」(ツインベッドの、野暮な米国調の部屋)、酔い冷ましには「カプセルホテル」、日本人であることと日本であることを満喫するための「リョカン」、そしてセックスには「ラブホテル」である。

列島にはたいてい、いたるところに「ラブホテル」があり、主に繁華街(札幌ススキノ、新宿歌舞伎町)周辺、丘の上 (*2) に集中、またはスパゲッティ屋(それ以外の日本)に隣接している。

「ラブホテル」は、見栄っ張りでキッチュな、そのヨーロピアンおよびハリウッド風建築と、偽物の窓が並んでいるのとで見分けがつく。ホテル名がフランス語なのもよくあることだ。(”Soleil / ソレイユ”、”Amour / アムール”)。さらにフランス語、のようなものも存在する(”Labien / ラビアン”)。

当然、ラブホテルへはカップルで、2時間ないし一夜を楽しむために来る。だがイナカの場合、アナタが「ガイジン」でしかも日本語がしゃべられない(か、そのフリでもいい)なら、ひとりで入ってもよい。アナタにどうやって説明すればいいのか女主人には分からないだろうから、一晩泊まらせてくれるだろう。安く済ませたいひとり旅にはよい方法だ。

ラブホテルの内部は、ドアの巧妙な仕掛けや電光掲示板、目隠しの窓が、秘密厳守をお約束。部屋はジャングルの部屋、船のキャビン、SM監獄部屋、人形の館、個人病院、ベニス、バグダッドまたはパリ趣味(お風呂のガラスにはミュシャの複製画、鉄製のニセ格子窓、ジャン・ギャバンやブリジット・バルドーのポスター)。

  室内では、歌も歌え、テレビも観られ、ビデオゲームで遊べ、ビールやコーヒーやお茶も飲める。そしていざセックスとなれば、スイッチパネルの使い方を知っておいたほうがよい。

1. ティッシュペーパー 使いたい放題。

2. コンドーム 一般的にふたつ、コンソールの脇か枕の下にそっと置かれている。ふたつとも使いきった場合、フロントに応援を頼むことが出来る。

3. AVビデオ 無料だが、むろん興味はない。ただしひとりで泊まることに成功したガイジンにとってはおそらく、有効。

4. 大人のおもちゃカタログ まさにアレそのものの形状や機能を持った器具でいっぱい。ただし有料。

5. コンソール 照明とラジオ機能。あらゆる好みに応じた周波数。レゲエ、ボサノバ、ロック、日本のポップス(避けるべし)、バルミュゼット、シャンソンとラジオ・フランス・インターナショナル。ラブホテルはフランスのニュースをじっくり聞くのにも一番いいところじゃないかと思う。

6. 電話 大人のおもちゃのオーダーや、コンドーム追加の際に。

7. ゴミ箱 ベッドの隅に、慎み深く、しかしながら必要不可欠。

 
(*1) 民族学的根拠はまったくなし。

(*2) おそらく渋谷道玄坂のホテル街のこと。

 
翻訳 / 関澄かおる

 
© 2006 Les Impressions Nouvelles / Frederic Boilet